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Whte T.(@Whte _T)による、洋楽Hip Hop/R&B・洋画の考察ブログ

Utopia - Travis Scott 深掘り解説・考察  UTOPIAは何を表しているのか

 

 こんにちは、Whte T.です。先日”Astroworld”から実に5年ぶりとなるTravis Scottの待望作、Utopiaがリリースされました。

 本作の音作りにある背景、そしてラヴィス・スコットが描くユートピア(理想郷)とは一体どのような姿なのか。深堀り解説・考察を通して、ユートピアの世界観に深く潜っていきたいと思います。

 

 

 

サウンドの”荒さ”とカニエの影響

 本作では豪華な客演がアルバムに花を添えています。Teezo Touchdown, Drake, Playboi Carti, Beyoncé, 21 Savage, the Weeknd, Swae Lee, Young Thug, Westside Gunn, Kid Cudi, Bad Bunny, SZA, Future, James Blakeと華々しい客演を揃えており、まるでトラヴィス主催のフェスに来たかのような楽しみ方を提供してくれるアルバムです。

 

また、ユートピア(理想郷)というアルバムタイトルとは対称的に、反理想郷(ディストピア)的な荒々しいビートや快楽的なトラップビートなど多様な楽曲が収録されている点においてもリスナーを飽きさせない、聞いていて楽しいアルバムに仕上がっていると感じました。Travis は2021年時点のインタビューにて"マッシュルームにも引けを取らないほど恍惚感を味わえる、サイケデリック・ロックのような作品である"と述べています。

https://wwd.com/fashion-news/designer-luxury/travis-scott-interview-dior-kim-jones-diamonds-psychedelic-rock-1234861749-1234861749/

 Astroworldのように恍惚感を感じさせるトラップビートだけではなく、Travisの師匠にあたるKanye westの2013年のアルバム、Yeezusを彷彿とさせるようなディストーションが強く掛かった荒いドラムやボーカル、ダークなシンセサウンドも多く聞かれます。

 

 本作において、カニエの影響は節々に現れています。実際、2曲目のThank Godや5曲目Gods countryはKanyeの作品DONDA(2021)に収録予定でした。またカニエ自身、thank godとtelekinesisではプロデューサーに名を連ねています。

 ラップの”フロー”(ラップのリズム感のこと)に着目してもYeezus(2013)やAll day(2016)期のKanyeのフローを模写したような部分が散見され、彼の影響を強く感じられます。特に個人的にはmodern jam, looveあたりでフローに「カニエらしさ」を強く感じました。

 

 プロデューサーに目を向けてもYeezusとの共通点を見出せます。例えば3曲目のModern JamはDaft-punkのGuy-Manuelをプロデューサーに迎えており、YeezusのI am Godと共通しています。一曲目から参加しているMike Deanカニエ・トラヴィスのアルバムには頻出のプロデューサーであり、力強い音のシンセ演奏が特徴です。本作ではアルバム全曲のミキシング・マスタリングも担当しています。


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TravisにとってのUtopiaとは

 さて、アルバムタイトルから一貫したコンセプトとなっているが、Utopia(理想郷)です。TravisにとってUtopiaは一体何を意味しているのか、何曲かご紹介しながら、アルバムのキーコンセプトの考察を試みたいと思います。私は本作のテーマを深堀するにあたって重要となるポイントが二つあるのではないかと考えています。

 ポイントの1つ目は欲望と精神的充足感のコントラストです。1曲目であるHYAENAでは、イギリスのプログレバンド、Gentle giantの楽曲”Proclamation”の一節から曲が始まります。「まだいい状態にも不幸な状態にもどちらにもなれる状態だ」と歌詞にあるように、この時点でTravis Scottはユートピアともディストピアとも取れない中間的な場所にいると考えられます。しかし、この時点ではUtopiaが一体どのような場所なのか、明示されてはいません。

 Sirensでは欲望との葛藤が描かれます。Sirenサイレーン)とは古代ギリシャの魅惑的な声を持つ伝説の生き物であり、誘惑の象徴です。曲の終盤にはドレイクが女性を自室に招くといったスキットが入ります。そこがUtopiaには見えないという女性に対し、その場所が自分にとっては完璧に見えると述べるDrakeという対比で幕を閉じます。


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 Topia twinsでは、Sirensに続き快楽主義的内容が描かれてます。しかし、タイトルが”topia”となっている通り、快楽的空間がユートピアを意味するのか、はたまたディストピアであるのか明示されていません。さらに、”U”=”you”が欠落していることから、自己を喪失している状態である、とも解釈できます。この自己を見失っている、という視点はCircus maximusでも語られます。

 Circus maximusではファンが望む姿と本来の自己との葛藤が描かれています。Circus maximusとはイタリアのチルコ・マッシモという競技場のことで、古代ローマ時代において戦車レースなどの娯楽を大衆に提供していた場所です。

 自らの命を危険に晒すパフォーマーを観客が楽しんでいるというチルコ・マッシモに、トラヴィスは自らを重ねて疑問を呈します。観客が望んでいるラッパー像を見事に演じ切れば観客からは喜んでもらえますが、それは本来の自己ではないパフォーマーにとっては金銭的には満たされても精神的には満たされず、そこにユートピアは存在していない。こういったメッセージをトラヴィスは伝えようとしているのではないでしょうか。

 

 ポイントの2つ目はキリスト教思想です。本作ではThank GodやModern Jamをはじめとして神を言及する節が度々登場します。アメリカでは国民の4分の3がキリスト教徒とも言われ、文化レベルでも非常にメジャーな概念となっています。また、ここでもカニエが強く影響していることは言うまでもありません。

 God’s countryでは、”神が治める国ではファミリーのような絆で結ばれている”との表現がなされます。キリスト教にはアガペー(隣人愛)という概念がありますが、ファンとの繋がりはまさに隣人愛のようなものであると表現していると考えられます。

 また、公式ミュージックビデオではスラム街の子供たちフィーチャーしたものになっており、ここにおいてもUtopiaは物理的な場所ではなく、心の拠り所のような精神的空間であることが示唆されていると考えられます。 


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 アルバム終盤のTelekenisisにおいては”永遠の命”や”トランペット”といった言及があります。キリスト教には神の再臨後に神の国が訪れるとの思想がありますが、”Utopia”への到達を、キリスト教における神の国の到来に準えて表現していることも本作の特徴の一つだと考えられます。    

   2021年時点の別のインタビューでは、医療の充実などが満たされていることはユートピアではなく、今いる現実=ディストピアにすぎず、むしろコミュニケーションが適切になされている状態がユートピアなのだと語っています。モノが満たされていることだけでは不十分で、人々が適切なコミュニケーションを取り精神的繋がりの中いる共同体こそがトラヴィスにとってのユートピアなのでしょう。

https://hypebeast.com/2021/9/travis-scott-utopia-album-meaning-cr-men-tom-sachs-natalie-shukur-interview

 

 つまり本アルバムのメッセージとしては、快楽などの肉体的充足感や金銭的充足感は一時的なものではあるが、自己実現や隣人愛などにより満たされる精神的充足感こそがかけがえのないものであり、それが人々の適切なコミュニケーションによって満たされている状態こそがユートピアである、ということではないでしょうか。そういった精神性についてキリスト教思想の観点と重ね合わせながら語られているのが本作の大きな流れとなっていると考えられます。

 皆様は本作をどのように感じられたでしょうか。改めてUtopiaをお聞きになり、ぜひもう一度世界観を味わってみて下さい!最後までお読みいただきありがとうございました。

 

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EMINEM VS SNOOP DOGG ビーフの経緯

新たなビーフが勃発しました。あのスヌープドッグをエミネムがディスしたのです。一緒にライブに登場し、同じドクタードレ軍団のような立場だった2人がどのような経緯でdissするまでに至ったのか整理していきたいと思います。

 
 
 
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Breakfast clubでのインタビュー

 

ことの発端はsnoop doggのインタビューです。彼は彼の思うラッパーtop10にエミネムを入れませんでした。そこにエミネムが入らない理由を尋ねられると、このような発言をしました。

 

「当時は白人ラッパーに地位なんてなかった。(中略)ドクタードレがエミネムのベストの状態を探すのを手伝ってくれた(から売れたんだよ)」

「80年代には彼が敵わないラッパーがたくさんいる。例えばRakim, Big daddy cane, Krs one, LL cool J...」

「彼はこの上なく頑張った。彼はチームメイト、ブラザーだ。でもヒップホップ、俺にとってなくては生きていけないヒップホップの話をするなら、俺はあれがなくても生きていけるんだ。」

 

 


Snoop Dogg says Eminem isn't his Top 10 rappers & Hip-Hop considers him top 10 cause of Dr. Dre

 

エミネムのディス

これに対し、エミネムは2020年の年末に出したアルバム"music to be murdered by side B"の"Zeus"の歌詞で以下のように反応しました。3rd verseの最後(3:15のあたり)です。

 

"Last thing I need is Snoop doggin' me
Man, Dogg, you was like a (Yeah) damn god to me
Nah, not really (Haha)
I had "dog" backwards"

 

和訳:

「一番いらないのはスヌープがウロウロとついてくる(動詞:dog)ことだ。

ああ、ドッグ、君はまるで俺にとって神(god)みたいだったのに。

いや、やっぱりそうでもないな。

たいしたことがないやつ(名詞:dog)を勘違いして逆に捉えてたみたいだ(dogを逆から読むとgod)。」

 

この短い間に言葉遊びがふんだんに使われてて面白いですね。

 


Zeus

 

Zeus (feat. White Gold)

Zeus (feat. White Gold)

  • provided courtesy of iTunes

 

 

 

エミネムのインタビュー

 

彼はその後、インタビューにおいてこのディスに関して解説してます。

 

「彼が言ったことのほとんどは構わないんだ。」

「90年代には敵わないラッパーがたくさんいる、ドクタードレがベストの状態でプロデュースしてくれた、その通りだ。そこに問題はない。ドレーがいなかったら今の自分はいるか?いるわけない。彼があげた90年代のラッパー、KRS One, Big Daddy Kane,  G Rapには敵わないし、敵うとも言ったことがない。」

「俺をびっくりさせたのはむしろ彼が使ってたトーンだよ。」

「それから、トーンをもしかしたら無視できたとしても、彼は最後に『俺にとってなくては生きていけないヒップホップの話をするなら、俺はあれがなくても生きていけるんだ。』と言った。あれは失礼だよ。そう言われるとは思ってなかった。」

「どうすればいいかわからなかった。本当に混乱した。だって、『おいブロ、俺たち同じチームだろ?』って感じだ。俺は一度たりとも自分のキャリアにおいてスヌープに失礼な発言はしたことがないのに」

 

 


Eminem MTBMB Side B Shade 45 Interview NYE Special (Disses Snoop Dogg & Apologises To Rihanna)

 

 

 

スヌープのトーンは確かに少し意地悪な感じだったので個人的にはエミネムがちょっとかわいそうです。2人の仲が平和的に解決されるといいですね。

最後まで読んでいただきありがとうございました!

 


 

 

エミネムのラップスキル解説 洋楽ラップにおけるうまさとは

 

 こんにちは、Whte T.です。今回はエミネムEMINEM)のラップがなぜうまい・凄いと言われているのか、そもそも洋楽ラップの上手い下手はどのように決まるのかを解説したいと思います。

 

洋楽ラップを聞いている/聞いてみたいが、どこでどのように韻を踏んでいるのかわからない方や、エミネムは天才伝説と評されていることは知っているもののラップの凄さがイマイチわからないという疑問をお持ちの方に向けて、エミネムのラップスキルの凄さに焦点を当てて解説していければと思います。

後述しますが、エミネムのラップのうまさは押韻だけにとどまりません。押韻を含め、洋楽HIP HOP / RAPにおけるラップスキルの高さとはどういったところにあるのか、日本語における言葉遊びの例などを出しながら、わかりやすく解説いたします。

 

目次

 

類韻の数

エミネムのラップスキルのひとつには韻(英語ではrhyme, ライム)の数が他のラッパーに比べて桁違いに多いことが挙げられます。韻とは言葉の響きが似ている単語や文章を並べることで、言葉にリズム感を持たせることです。ラップに特有なものではなく、英語の古い詩や和歌、漢詩にも使われています。

 

特に母音(ア、イ、ウ、エ、オなど)が一致している単語を並べる韻を類韻と言いますエミネムはこの類韻が非常に優れています。例えば、batと韻を踏む単語はfat、that、catなどがあります。

 

また、back、match、wackなどもbatと韻を踏んでいます。日本語は母音と子音が1セットで一文字になっています。例えば、t+a=た、n+i=に、といった具合です。しかし、英語は1セットになっているとは限りません。bat、back、match、wackのどれも「a」という同じ音の一つの母音しか持たない単語なのでどれも韻を踏んでいるのです。また、ヒップホップにおいては本来は少しだけ違う母音ではあるものの、発音の仕方で韻を踏ませることもあります。

 

通常はこうした韻を踏む単語をたくさん使い、まるでゲームのテトリスのようにうまく組み合わせながら、長い塊で韻を踏んでいきます。日本語で言えば「エミネムを聴く」と「ねじれるコイル」のような感じでしょうか。笑

 

では実際にエミネムの類韻の量を下記の動画でご覧ください。単語の色が同じところが韻を踏んでいるところです。


Eminem - Lose Yourself - [Lyric Video & Colored Rhyme Scheme]

 


Eminem’s Verse on Dr. Dre’s “Forgot About Dre” | Check The Rhyme


Eminem’s Verse On Logic’s “Homicide” | Check The Rhyme

 

 

普通は文の最後だけで一単語で韻をふむラッパーも多いですが、エミネムは文章の至る所で韻を踏んでいます。さらに、でたらめな文章ではなく、しっかりと文章として成立しているところが洋楽ラップの面白いところです。

 

 

 

頭韻・子音韻の数

実は先ほどの母音で踏む韻、類韻の他に子音韻という種類の韻もあります。これは文字通り、子音を同じにして踏む韻のことです。特に頭の子音が一緒である場合は頭韻と言います。例えばbat, back, bit, bicycle, beatといった具合です。日本語で言うとバイク川崎バイクさんの芸に近いでしょう。

エミネムは先ほどのように類韻も踏みつつ、子音韻も混ぜてくることがあります。以下はJay Zとのコラボ曲"renegade"での一節です。

"Now who's the king of these rude, ludicrous, lucrative lyrics?"
(Renegade by Jay-Z feat. Eminem)

Lで頭韻、Rで子音韻、Uで類韻になっています。そしてもちろん最後の"lyrics"は前後の文章の言葉と類韻を踏んでいます。

 

掛け詞などの言葉遊び

次にご紹介するのは「掛け詞」です。これは一つの文章で2通りや3通りにも解釈できるという面白い文章のことです。日本語で近い例は謎かけです。エミネムのすごさは韻を踏みつつ、こうした「ダジャレ」を入れてくることなんです。今回は2020年現在最新アルバムからいくつか例を紹介します。

 

①Stepdad

この曲はeminemが義理の父親から受けた虐待の苦悩を綴った曲です。そのため内容はとても激しいものになっています。


Stepdad [Official Audio]

 

"I'm talkin' euthanasia, like kids in Taiwan"

Letra: https://letrasbd.com/eminem/stepdad/

安楽死のことを言っているんだよ。台湾の子供みたいに。」

 

訳だけだと意味がわかりませんが、それは言葉遊びだからです。安楽死(euthanasia)は

youth in asia(アジアの若者)とも聞こえます。だから台湾の子供が出てきたのです。もちろんkids in taiwanは前後の文章と押韻しています。

 同じ曲からもう一つ。

 

"So many battery charges, this dude's like lithium ion"

Letra: https://letrasbd.com/eminem/stepdad/

「すごい量の暴行容疑、こいつはまるでリチウムイオン電池だ」

 

batteryにはバッテリーという意味の他に殴打という意味、charge(チャージ)には容疑、嫌疑という意味があります。暴行容疑とバッテリーチャージ=充電をかけているのです。

 

②marsh

この曲はエミネムが地球のレベルに収まりきらないくらいラップがうまい、という内容の曲です。


Marsh [Official Audio]

 

My name is Marsh and, I'm out this world (This world)
S on my chest (Superman) like it's plural (It's lit)
Call me extra, extra terrestrial
Extra, extra, extra terrestrial (Skrrt, yeah)

Letra: https://letrasbd.com/eminem/marsh/

「俺の名前はマーシュで、この世界の人間じゃない。

胸にはSのマーク、複数形みたいに。

俺のことは地球外生命体と呼んでくれ。」

 

eminemの本名はmarshallなのでニックネームはmarsh(マーシュ)です。"marsh and"は"martian"(火星人)とも聞こえます。Sが胸にあるのはスーパーマンのトレードマークですが、スーパーマンもクリプトンという星の出身の宇宙人です。

また、英語では複数形(plural)にSをつけます。さらにpluralはpleural(形容詞:胸膜の)と発音が一緒で、胸とも掛かってます。

 

If you're still looking for smoke, I already gave you an L
I'd rather just see you in hell, but I should get Puff on the joint (Diddy)

Wait, run it back, I said give you an L, in hell
Puff on the joint, I am the blunt you avoid

Letra: https://letrasbd.com/eminem/marsh/

「もしまだ消されたがっているんなら("smoke")、もう俺はお前を打ち負かしたはずだろ

地獄で会う方がいいだろ、でもpuff diddyと一緒に次の曲を作らないとな

 

まて、巻き戻せ、俺"L"、"in hell"、"Puff on the joint”って言ったよな?

俺はお前が避ける"blunt"(ヤク)だ」

 

前半は以前dissを行ったMGKに対する一節です。また、puff diddyはMGKの親分です。MGKに対し、もう彼を打ち負かしたと言っている部分になります。

一方で、smoke=煙、L=El productoというタバコ、in hell=inhale=吸う、puff on the joint=ジョイントで吸う、という意味があります。つまり「まだ煙を欲しがっているみたいだけど、もうタバコを渡したはずだ。お前が吸っているところを見たいけど、俺もジョイントですわないと。」という意味にも取れます。

内容は少し危険ですが、一節丸ごと掛け言葉になっているところは圧巻です。

 

I look up to myself (Yeah)
Like a f*cking headstand (Yeah)

Letra: https://letrasbd.com/eminem/marsh/

「俺は自分自身を尊敬している。まるで逆立ちしてる時みたいに。」

 

look up toとは「を尊敬している」という熟語ですが、文字通りにとれば「を見上げる」という意味になりますよね。逆立ちしたら自分自身を「見上げる」ことになります。

また、エミネムのファンのことをStanと言いますが(エミネムの楽曲、”Stan”から来ています)、headstandはhead stan(エミネムの一番のファン)とも発音がほぼ一緒です。

エミネムの大ファンみたいに、自分自身を尊敬している」とも取れるのです。

 

このように、エミネムはこうした掛け言葉を要所に散りばめており、これも彼のラップスキルの醍醐味です。こうした掛け言葉はネイティブでも気づかないことも多く、ラップの歌詞解説専用のサイトもあります。

genius.com

 

 

スピード

これは最近のエミネムの得意分野です。特にrap godがギネス記録に認定されたことは大きな話題を呼びました。


Eminem - Rap God (Explicit) [Official Video]

そして2020年の一月に発売された、"Music to be murdered by"からの楽曲"Godzilla (feat. juice WRLD)"ではさらに速いラップを披露し、話題になりました。


Godzilla (feat. Juice WRLD) [Official Audio]

 

リズム感

ヒップホップでは韻をふむタイミングも重要で、ラッパーのリズム感が出ます。「エミネムは韻を踏んでいるところがドラムのリズムようになっている」とユーチューバーの井上ジョーさんもおっしゃっていましたが、同感です。韻を踏むタイミングを前後の文章と固定することにより、一定のリズムを奏でているように聞こえるのです。


エミネムの凄さをアメリカ人が説明する

 

 

まとめ

今回はEminemのラップスキルの凄さを解説いたしました。押韻はもちろん、リズム、スピード、ウィットに富んだ言葉遊びが複雑に絡み合い、ラップが成り立っているのです。

この解説を機に少しでも洋楽ラップの素晴らしさを感じ、興味を持っていただければ幸いです。最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

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映画『ジョーカー/JOKER』考察 悲劇と喜劇の間

先日バットマンの宿敵であるジョーカー誕生の物語、JOKERを見てきました。メッセージ性が強く、見終わった後も何日間も考えてしまうような作品でした。今回は作品に込められたメッセージを考察していきたいと思います。以下ネタバレを含みます。

 


映画『ジョーカー』本予告【HD】2019年10月4日(金)公開

 

 

 

「この人生以上に硬貨(高価)な死を」

劇中に何度か登場したこの表現、原文では下記のような表現です。私はこの短い文の間にジョーカーの価値観が詰まっていると感じています。

 

I hope my death makes more cents (sense) than my life.

cents:こんな人生よりも死によってもっとお金が手に入りますように。

sense:こんな人生よりも死の方が意味のあるものでありますように。

 

centsとsenseは英語では非常に発音が近く、掛言葉、ダブルミーニングになっています。

 

centsとしてとった場合、これは貧富の差が拡大しているゴッサムシティにおいて特に顕著である、資本主義に対する批判とも取れます。死んでまでお金を手にしたい、ということです。これは資本主義の中でお金に貪欲に生きるゴッサムシティの市民を皮肉っているのです。

 

senseとしてとった場合、これはジョーカーの人生観を表します。普通の人ならば、死んでしまえば意識がなくなるのだから、死自体には意味などないと考えます。しかしジョーカーの場合、人生の一点一点は悲劇であり、そこに意味は見出せません。ジョーカーにとっては人生を終えて振り返った時にやっと喜劇として笑えるものになるのです。

 劇中で「自分の人生をずっと悲劇と思っていたが実は喜劇だった」とアーサーがいうシーンがあります。これはかの有名なコメディアン、チャップリンの名言へのオマージュです。チャップリンの名言は「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れは喜劇だ」というものです。

 

客観的社会批判としてのJoker

本作品では「アーサー」の笑いから「ジョーカー」の笑いへと緩やかに変化していく様がうまく描かれていたと感じました。両者の笑いには緩やかな変化ではあっても大きく違う部分があったと感じています。主体と客体、悲劇と喜劇、クローズアップとロングショット、こうした対比がうまく物語の中で語られていたと感じました。

 

物語前半の「アーサー」は母からの虐待により、辛い時に笑うようになってしまった

どんな時も笑顔でいなさいとの母の教えを守りながらも虐待を受けていたアーサー。しかし、虐待による脳挫傷により、障害を負ってしまいます。このせいで前触れもなく急に笑い始めてしまう症状を持つわけですが、皮肉なことに辛い場面で高らかに笑うようになってしまうのです。

ピエロの格好をして必死に宣伝をするも、悪ガキに看板を奪われ、リンチまでもされてしまうアーサー。ただし、この段階では笑ってこそはいるものの、つらいという感情を持っていることには変わりありません。主観的に自身の状況を捉え、その状況をつらいと感じ、つらいから笑っているのです。

 

しかし、物語の後半では自分は誰からも愛されていないことを悟り、自分の存在意義すらも疑ってしまいます。「自分の人生は、悲劇だと思っていたが、実は喜劇だった」とアーサーが語る物語の後半から「アーサー」は「ジョーカー」へと変貌していきます。

アーサーの終着点、ジョーカーとしての笑いでは自分の置かれた社会の理不尽さ、皮肉さに対する客観視点から出てくる社会批判的笑いであると思います。子供が車にひかれて死ぬというジョークのシーンに見られるように、主観的な観点ではなく、ジョーカーは社会的不合理に笑いを感じています。アーサーは少しずつ自らの主観からメタへの脱皮をして「ジョーカー」になったのです。

 

「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れは喜劇だ」というチャップリンの言葉の視点で見れば、アーサーの人生は「クローズアップで見た悲劇」でしたが、ジョーカーの人生では「ロングショットで見た喜劇」になったのではないでしょうか。

 ある点を境にアーサーからジョーカーに転じてしまうのではなく、少しずつ時間をかけながら変化していくように描写されていました。実際、どこまでがアーサーでどこからがジョーカーかは判断が難しく、どこからが悲劇でどこからが喜劇なのかわからない。チャップリンの言葉に則れば、まさにクローズアップから少しずつズームアウトをしてジョーカーの全貌が見えてくるかのようでした。

 

皆様はどのように感じられたでしょうか。最後までお読みいただきありがとうございました。

 

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EMINEM VS MGK ビーフの経緯

こんにちは。エミネムEminem)とマシンガン・ケリー(Machingun Kelly, MGK)というラッパーどうしがビーフ状態なのを洋楽ラップファンならご存知だと思いますが、どういった成り行きや流れでディスに至ったか、エミネムがディスをする理由を知りたい方も多いのではないでしょうか。

今回はエミネムとmgkがビーフ状態に至った経緯を追っていきたいと思います。

 

 

ことの発端は2012年にマシンガンケリーがしたツイートでした。(削除済み)

 

"ok so i just saw a picture of eminem's daughter...and i have to say, she is hot as ****, in the most respectful way cuz Em is king."        @machinegunkelly     

訳:エミネムの娘(ヘイリー)の写真をたったいま見たんだ。そして彼女はとてもセクシーだと言わざるおえない。一番尊敬を込めた意味でね。エミネムはラップ界の王様だから。

 

 

しかしヘイリーは未成年だったためMGKはこのツイートが炎上してしまいます。その後、エミネムがラジヲ番組「shade 45」にMGKを出入り禁止にします。このことに対してMGKも不快感を募らせてしまいます。

 

そうしたなかで、MGKはラッパーTech N9neとのコラボ曲”no reason”(ノー リーズン)でエミネムを暗にディス(subliminal diss)します。

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パトカーの中からチャートのトップに躍り出てやったぜ

お前はただラップをするだけで神じゃないってことを思い出させるためにな

 

これはeminemのヒット曲、"rap god"を暗示しています。ちなみにコラボ相手のtech n9ne(テクナイン)はこのsubliminalなdissに気がつかなかったそうです。テクナインとエミネムの関係は良好です。

tech n9neも非常にスキルが高いラッパーでEminemとのコラボ曲も出しています。

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この問題に対し、エミネムは2018年8月にサプライズリリースされたアルバム、kamikazeの収録曲、"not alike"(ノット アライク)の中で以下のように反応しました。

 

Not Alike (feat. Royce da 5'9

Not Alike (feat. Royce da 5'9")

  • provided courtesy of iTunes

 

"So he does a feature, decides to team up with Nina
But next time you don't gotta use Tech N9ne
If you wanna come at me with a sub-machine gun
And I'm talkin' to you
But you already know who the f*ck you are, Kelly
I don't use sublims and sure as f*ck don't sneak-diss
But keep commenting on my daughter Hailie"

Letra: https://letrasbd.com/eminem/not-alike/

 

意訳

だからあいつはコラボして、Nina(Tech N9ne)と組むことを決めた

でも次はTech N9neはいらない、もしサブマシンガンで俺に挑みたいならな

お前に話しかけてるんだぞ、誰のことかわかってんだろ、ケリー

俺はサブリミナルメッセージは使わない

絶対にコソコソと嘘は言わない

でも俺の娘についてコメントし続ける

 

 

これに対し、MGKはエミネムに対するdiss曲”rap devil”(ラップ デビル)を発表。エミネムの”rap god”(ラップゴッド)に対抗した名前になってます。

 

 

ツイッターで彼は自らのジェネレーションのために立ち上がった、とコメントしています。

 

 

 


Machine Gun Kelly "Rap Devil" (Eminem Diss)

 

内容としてはエミネムに対する尊敬と怒りが交錯しているような印象を受けました。

彼としても複雑な気持ちでしょう。

 

 

そして2018/9/7にはエミネムがインスタグラムにパックマンをプレイする様子を投稿。MGKはパックマンのタトゥーを入れており、これから新たなディス曲が発表されることを示唆。


Eminem playing Ms. Pac-Man LIVE on Instagram

 

 そしてついにエミネムはrap devilへの返答としてdiss track、kill shot(キルショット)を公開したのでした。

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最後まで読んでいただきありがとうございました!