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Whte T.(@Whte _T)による、洋楽Hip Hop/R&B・洋画の考察ブログ

Utopia - Travis Scott 深掘り解説・考察  UTOPIAは何を表しているのか

 

 こんにちは、Whte T.です。先日”Astroworld”から実に5年ぶりとなるTravis Scottの待望作、Utopiaがリリースされました。

 本作の音作りにある背景、そしてラヴィス・スコットが描くユートピア(理想郷)とは一体どのような姿なのか。深堀り解説・考察を通して、ユートピアの世界観に深く潜っていきたいと思います。

 

 

 

サウンドの”荒さ”とカニエの影響

 本作では豪華な客演がアルバムに花を添えています。Teezo Touchdown, Drake, Playboi Carti, Beyoncé, 21 Savage, the Weeknd, Swae Lee, Young Thug, Westside Gunn, Kid Cudi, Bad Bunny, SZA, Future, James Blakeと華々しい客演を揃えており、まるでトラヴィス主催のフェスに来たかのような楽しみ方を提供してくれるアルバムです。

 

また、ユートピア(理想郷)というアルバムタイトルとは対称的に、反理想郷(ディストピア)的な荒々しいビートや快楽的なトラップビートなど多様な楽曲が収録されている点においてもリスナーを飽きさせない、聞いていて楽しいアルバムに仕上がっていると感じました。Travis は2021年時点のインタビューにて"マッシュルームにも引けを取らないほど恍惚感を味わえる、サイケデリック・ロックのような作品である"と述べています。

https://wwd.com/fashion-news/designer-luxury/travis-scott-interview-dior-kim-jones-diamonds-psychedelic-rock-1234861749-1234861749/

 Astroworldのように恍惚感を感じさせるトラップビートだけではなく、Travisの師匠にあたるKanye westの2013年のアルバム、Yeezusを彷彿とさせるようなディストーションが強く掛かった荒いドラムやボーカル、ダークなシンセサウンドも多く聞かれます。

 

 本作において、カニエの影響は節々に現れています。実際、2曲目のThank Godや5曲目Gods countryはKanyeの作品DONDA(2021)に収録予定でした。またカニエ自身、thank godとtelekinesisではプロデューサーに名を連ねています。

 ラップの”フロー”(ラップのリズム感のこと)に着目してもYeezus(2013)やAll day(2016)期のKanyeのフローを模写したような部分が散見され、彼の影響を強く感じられます。特に個人的にはmodern jam, looveあたりでフローに「カニエらしさ」を強く感じました。

 

 プロデューサーに目を向けてもYeezusとの共通点を見出せます。例えば3曲目のModern JamはDaft-punkのGuy-Manuelをプロデューサーに迎えており、YeezusのI am Godと共通しています。一曲目から参加しているMike Deanカニエ・トラヴィスのアルバムには頻出のプロデューサーであり、力強い音のシンセ演奏が特徴です。本作ではアルバム全曲のミキシング・マスタリングも担当しています。


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TravisにとってのUtopiaとは

 さて、アルバムタイトルから一貫したコンセプトとなっているが、Utopia(理想郷)です。TravisにとってUtopiaは一体何を意味しているのか、何曲かご紹介しながら、アルバムのキーコンセプトの考察を試みたいと思います。私は本作のテーマを深堀するにあたって重要となるポイントが二つあるのではないかと考えています。

 ポイントの1つ目は欲望と精神的充足感のコントラストです。1曲目であるHYAENAでは、イギリスのプログレバンド、Gentle giantの楽曲”Proclamation”の一節から曲が始まります。「まだいい状態にも不幸な状態にもどちらにもなれる状態だ」と歌詞にあるように、この時点でTravis Scottはユートピアともディストピアとも取れない中間的な場所にいると考えられます。しかし、この時点ではUtopiaが一体どのような場所なのか、明示されてはいません。

 Sirensでは欲望との葛藤が描かれます。Sirenサイレーン)とは古代ギリシャの魅惑的な声を持つ伝説の生き物であり、誘惑の象徴です。曲の終盤にはドレイクが女性を自室に招くといったスキットが入ります。そこがUtopiaには見えないという女性に対し、その場所が自分にとっては完璧に見えると述べるDrakeという対比で幕を閉じます。


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 Topia twinsでは、Sirensに続き快楽主義的内容が描かれてます。しかし、タイトルが”topia”となっている通り、快楽的空間がユートピアを意味するのか、はたまたディストピアであるのか明示されていません。さらに、”U”=”you”が欠落していることから、自己を喪失している状態である、とも解釈できます。この自己を見失っている、という視点はCircus maximusでも語られます。

 Circus maximusではファンが望む姿と本来の自己との葛藤が描かれています。Circus maximusとはイタリアのチルコ・マッシモという競技場のことで、古代ローマ時代において戦車レースなどの娯楽を大衆に提供していた場所です。

 自らの命を危険に晒すパフォーマーを観客が楽しんでいるというチルコ・マッシモに、トラヴィスは自らを重ねて疑問を呈します。観客が望んでいるラッパー像を見事に演じ切れば観客からは喜んでもらえますが、それは本来の自己ではないパフォーマーにとっては金銭的には満たされても精神的には満たされず、そこにユートピアは存在していない。こういったメッセージをトラヴィスは伝えようとしているのではないでしょうか。

 

 ポイントの2つ目はキリスト教思想です。本作ではThank GodやModern Jamをはじめとして神を言及する節が度々登場します。アメリカでは国民の4分の3がキリスト教徒とも言われ、文化レベルでも非常にメジャーな概念となっています。また、ここでもカニエが強く影響していることは言うまでもありません。

 God’s countryでは、”神が治める国ではファミリーのような絆で結ばれている”との表現がなされます。キリスト教にはアガペー(隣人愛)という概念がありますが、ファンとの繋がりはまさに隣人愛のようなものであると表現していると考えられます。

 また、公式ミュージックビデオではスラム街の子供たちフィーチャーしたものになっており、ここにおいてもUtopiaは物理的な場所ではなく、心の拠り所のような精神的空間であることが示唆されていると考えられます。 


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 アルバム終盤のTelekenisisにおいては”永遠の命”や”トランペット”といった言及があります。キリスト教には神の再臨後に神の国が訪れるとの思想がありますが、”Utopia”への到達を、キリスト教における神の国の到来に準えて表現していることも本作の特徴の一つだと考えられます。    

   2021年時点の別のインタビューでは、医療の充実などが満たされていることはユートピアではなく、今いる現実=ディストピアにすぎず、むしろコミュニケーションが適切になされている状態がユートピアなのだと語っています。モノが満たされていることだけでは不十分で、人々が適切なコミュニケーションを取り精神的繋がりの中いる共同体こそがトラヴィスにとってのユートピアなのでしょう。

https://hypebeast.com/2021/9/travis-scott-utopia-album-meaning-cr-men-tom-sachs-natalie-shukur-interview

 

 つまり本アルバムのメッセージとしては、快楽などの肉体的充足感や金銭的充足感は一時的なものではあるが、自己実現や隣人愛などにより満たされる精神的充足感こそがかけがえのないものであり、それが人々の適切なコミュニケーションによって満たされている状態こそがユートピアである、ということではないでしょうか。そういった精神性についてキリスト教思想の観点と重ね合わせながら語られているのが本作の大きな流れとなっていると考えられます。

 皆様は本作をどのように感じられたでしょうか。改めてUtopiaをお聞きになり、ぜひもう一度世界観を味わってみて下さい!最後までお読みいただきありがとうございました。

 

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