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Whte T.(@Whte _T)による、洋楽Hip Hop/R&B・洋画の考察ブログ

映画『ジョーカー/JOKER』考察 悲劇と喜劇の間

先日バットマンの宿敵であるジョーカー誕生の物語、JOKERを見てきました。メッセージ性が強く、見終わった後も何日間も考えてしまうような作品でした。今回は作品に込められたメッセージを考察していきたいと思います。以下ネタバレを含みます。

 


映画『ジョーカー』本予告【HD】2019年10月4日(金)公開

 

 

 

「この人生以上に硬貨(高価)な死を」

劇中に何度か登場したこの表現、原文では下記のような表現です。私はこの短い文の間にジョーカーの価値観が詰まっていると感じています。

 

I hope my death makes more cents (sense) than my life.

cents:こんな人生よりも死によってもっとお金が手に入りますように。

sense:こんな人生よりも死の方が意味のあるものでありますように。

 

centsとsenseは英語では非常に発音が近く、掛言葉、ダブルミーニングになっています。

 

centsとしてとった場合、これは貧富の差が拡大しているゴッサムシティにおいて特に顕著である、資本主義に対する批判とも取れます。死んでまでお金を手にしたい、ということです。これは資本主義の中でお金に貪欲に生きるゴッサムシティの市民を皮肉っているのです。

 

senseとしてとった場合、これはジョーカーの人生観を表します。普通の人ならば、死んでしまえば意識がなくなるのだから、死自体には意味などないと考えます。しかしジョーカーの場合、人生の一点一点は悲劇であり、そこに意味は見出せません。ジョーカーにとっては人生を終えて振り返った時にやっと喜劇として笑えるものになるのです。

 劇中で「自分の人生をずっと悲劇と思っていたが実は喜劇だった」とアーサーがいうシーンがあります。これはかの有名なコメディアン、チャップリンの名言へのオマージュです。チャップリンの名言は「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れは喜劇だ」というものです。

 

客観的社会批判としてのJoker

本作品では「アーサー」の笑いから「ジョーカー」の笑いへと緩やかに変化していく様がうまく描かれていたと感じました。両者の笑いには緩やかな変化ではあっても大きく違う部分があったと感じています。主体と客体、悲劇と喜劇、クローズアップとロングショット、こうした対比がうまく物語の中で語られていたと感じました。

 

物語前半の「アーサー」は母からの虐待により、辛い時に笑うようになってしまった

どんな時も笑顔でいなさいとの母の教えを守りながらも虐待を受けていたアーサー。しかし、虐待による脳挫傷により、障害を負ってしまいます。このせいで前触れもなく急に笑い始めてしまう症状を持つわけですが、皮肉なことに辛い場面で高らかに笑うようになってしまうのです。

ピエロの格好をして必死に宣伝をするも、悪ガキに看板を奪われ、リンチまでもされてしまうアーサー。ただし、この段階では笑ってこそはいるものの、つらいという感情を持っていることには変わりありません。主観的に自身の状況を捉え、その状況をつらいと感じ、つらいから笑っているのです。

 

しかし、物語の後半では自分は誰からも愛されていないことを悟り、自分の存在意義すらも疑ってしまいます。「自分の人生は、悲劇だと思っていたが、実は喜劇だった」とアーサーが語る物語の後半から「アーサー」は「ジョーカー」へと変貌していきます。

アーサーの終着点、ジョーカーとしての笑いでは自分の置かれた社会の理不尽さ、皮肉さに対する客観視点から出てくる社会批判的笑いであると思います。子供が車にひかれて死ぬというジョークのシーンに見られるように、主観的な観点ではなく、ジョーカーは社会的不合理に笑いを感じています。アーサーは少しずつ自らの主観からメタへの脱皮をして「ジョーカー」になったのです。

 

「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れは喜劇だ」というチャップリンの言葉の視点で見れば、アーサーの人生は「クローズアップで見た悲劇」でしたが、ジョーカーの人生では「ロングショットで見た喜劇」になったのではないでしょうか。

 ある点を境にアーサーからジョーカーに転じてしまうのではなく、少しずつ時間をかけながら変化していくように描写されていました。実際、どこまでがアーサーでどこからがジョーカーかは判断が難しく、どこからが悲劇でどこからが喜劇なのかわからない。チャップリンの言葉に則れば、まさにクローズアップから少しずつズームアウトをしてジョーカーの全貌が見えてくるかのようでした。

 

皆様はどのように感じられたでしょうか。最後までお読みいただきありがとうございました。

 

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